素材革新が水電解槽市場を牽引

Green Hydrogen renewable energy production pipeline - green hydrogen gas for clean electricity solar and windturbine facility.
持続可能なエネルギーソリューションへの世界的なシフトが顕著な時代において、水素産業はこの変革の波の最前線にあります。再生可能エネルギーを使用して水を電気分解することで作られるグリーン水素は、直接電化が課題として残るセクターの脱炭素化において、鍵となる解決策として注目を浴びています。これは、石油精製などの重工業や海運などの輸送セクターの排出量削減に向けた重要な一歩です。世界中の政府や企業は今、エネルギー安全保障を強化し、新たな市場機会を切り開くグリーン水素の可能性を強調しながら、その増産に向けて意欲的な目標設定を掲げています。
 
グリーン水素急増の核心は、電解槽技術の絶え間ない革新です。水を水素と酸素に分解する電解槽は、その電極、膜、触媒に先端材料を多く使用し、これらは、効率性、耐久性、全体的性能を最適化する上で重要なコンポーネントです。堅牢性を高めた膜や効率性の高い触媒の開発のような材料科学におけるイノベーションは、低コスト化や長寿命化を実現し、希少で高価な材料の使用を最小限に抑える上で極めて重要な役割を果たします。 グリーン水素の需要が高まるにつれ、材料技術の進歩はますます重要になっています。しかし、より効果的な電解槽を作ることだけが目的ではありません。真のグリーン水素経済への道を切り開くために、これらのシステムが持続可能で、スケーラブルで、利用しやすいものであることも保証しなければなりません。
 
IDTechExの調査レポ―ト『グリーン水素製造用材料 2024-2034年:技術、有力企業、見通し』では、4つの主要な水電解槽技術で利用されている材料とコンポーネントの現状と将来性について掘り下げています。また、製造方法、商業活動、主要な業界プレーヤー、全ての電解槽スタック構成要素における主要な技術革新についても取り上げています。
 
アルカリ水電解装置(AWE):広く入手可能な材料を使用したイノベーション
 
アルカリ水電解装置は、アルカリ水溶液(通常は水酸化カリウム(KOH))と、半電池の槽の間を仕切る多孔質隔膜を使用する、長年の実績をもつ確かな技術です。この装置はニッケルやステンレス鋼といった入手しやすい材料に依存しており、その傾向は今後も続いていくと見られます。現在のところ、AWEシステムは有限ギャップとゼロギャップに分類され、業界では後者が好まれるようなっています。その理由は、効率とガス輸送特性を大幅に向上させる多孔質輸送層(PTL)があるためです。
 
AWEシステムにおいて、イノベーションが推進力となる状況が続き、メーカー各社は電極の被膜や触媒に新境地を見いだそうとしています。このような進歩は、確立した技術の効率性と有効性を高めることを目的とします。また、ガス発生の反応性を高めるためにスタック設計の改良にも注目が高まっています。このようなイノベーションは、再生可能エネルギー源との融合をより良い形で実現し、グリーン水素の製造を最適化するのに不可欠です。多くの企業がスタックの自社製造に着手していますが、いくつかの部材については外部のサプライヤーへの依存が続いています。特に触媒の改良やセルの構成と改変という面では、このような相互依存関係がさらなるイノベーションの機会をもたらし、AWEシステムの機能を強化します。
 
PEM(プロトン交換膜)型水電解装置(PEMEL):貴金属の使用量を削減し、効率を向上
 
Proton exchange membrane electrolyzer (PEMEL) cell components. Source: IDTechEx
 
PEM型水電解装置(PEMEL)は、高効率でコンパクトな設計、変動的な再生可能エネルギー源への適応性により、大きな支持を獲得しつつあります。PEMELのスタックにおいて材料の規格化に向けた動きはあるものの、特に負極触媒の開発では、イノベーションが停滞しているわけでは決してありません。最近の進歩としては、高触媒活性を維持しつつ、イリジウムの使用量を大幅に削減する触媒があります。イリジウムの使用を抑えることで、キロワット(kW)当たりの材料コストを下げ、全体的により手頃なものとなっています。さらに重要なのは、今後のイリジウム供給によって、その可能性が制限される懸念が大きいため、このようなイノベーションの導入がPEMELの成功に不可欠である点です。
 
PEMEL技術においては、他にも多様でインパクトの強いイノベーションがあります。たとえば、プロトン交換膜の薄膜化は効率の向上に寄与し、チタン製バイポーラプレートの革新的な被膜は耐久性を高め、貴金属への依存度を減らしています。こうした進歩は、商用PEMELの先進的設計とともに、スタック性能の大幅な改善の可能性を浮き彫りにしています。新しい被膜と製造法、中でも触媒層付き電解質膜(CCM)向けは、こうした改良の最前線であり、費用対効果と効率性の高いPEMEL技術の新時代を約束しています。
 
AEM(アニオン交換膜)型水電解装置(AEMEL):AWEとPEMELの利点を融合
 
AEM型水電解装置(AEMEL)は、アルカリ技術とPEM技術の双方の長所を利用することを目的とした成長過程にある技術です。AEMELが目指すのは、AWEの豊富な材料とPEMELの高い効率特性の融合です。他に先駆けて商用メガワット規模の商用システムの開発を進めているエナプターに代表されるように、この技術は急成長とイノベーションを遂げようとしています。
 
比較的歴史の浅い技術でもあり、材料の規格化はAWEやPEMELほど進んでいません。そのため、AEMELにはイノベーションの可能性が大いにあり、学術的・商業的研究も膜と触媒の改良に重点が置かれています。この側面は、AEMELが持つイノベーションの潜在力を後押しするだけでなく、AEMELを戦略的に位置づけるものです。安定性、効率性、材料の入手性を独自に組み合わせることで、電解槽技術に革命をもたらしうるものになります。
 
固体酸化物形電解セル(SOEC):高温におけるセラミックのイノベーション
 
固体酸化物形電解セル(SOEC)は、電解質の領域では比較的まだ新しい技術であり、市場での存在感もAWEやPEMELほどありません。しかし、固体酸化物形燃料電池(SOFC)分野とイノベーションを共有することで、SOECは勢いを大きく増しています。SOFCとSOECの間でスタックの互換性がある(特に同じような材料を使用する場合)ことが主な利点です。特定のセラミック部材についてはすでに技術的に確立されていますが、SOECにおける新しい電極・電解質接合体の開発は依然としてイノベーションの活発な領域となっています。スタックメーカーごとに、セルの設計や使用材料にかなりのばらつきがあることもその一因です。これらは金属支持型から電極支持型までさまざまなものがありますが、それぞれに独自の利点があり、取り入れているセラミック材料も多岐にわたります。
 
SOECにおける主な課題の1つが各種材料の熱適合性です。これにより、接続部材やシール材といった他のスタック部材も進歩を遂げてきました。新しい材料や被膜により、熱適合性が向上するだけでなく、セル部材の劣化も抑制できます。全体的にSOECのスタックに使用される材料は多岐にわたりますが、これは技術の多様性だけでなく、高温電解槽での材料革新の可能性も強調しています。SOECを取り巻く状況の変化は、新しいセラミック材料と革新的なセル構成によって電解技術を進歩させることへの興味深い可能性を示しています。
 
市場見通し & 戦略的インサイト
 
電解槽用部材市場は大きく拡大しようとしており、IDTechExは、その市場価値は2034年までに317億ドルに到達するものと予測しています。この成長を主に後押しするのは、電解槽が重要な役割を担うグリーン水素業界の急速な発展です。IDTechExの調査レポート『グリーン水素製造用材料 2024-2034年:技術、有力企業、見通し』では、アルカリ水電解装置(AWE)、PEM型水電解装置(PEMEL)、AEM型水電解装置(AEMEL)、固体酸化物形電解セル(SOEC)という4つの主要電解槽技術で使用される現在および将来の材料や部材を徹底的に分析しています。
 
本レポートでは、AWE、PEMEL、SOECのスタックに焦点を当てながら、スタックのコストの内訳を部材別にわかりやすく記載しています。電解槽用のスタック、コンポーネント、材料を扱うサプライヤーの一覧も、業界内の主な商業革新のケーススタディと併せてご覧いただけます。また、10年間の詳細な予測も掲載しており、材料やコンポーネントに対する需要をトン、平方メートル(m2)、ドル(単位:100万ドル/年)で数値化しています本レポートでは、主な機会や業界の成長の方向性を取り上げながら、電解槽市場の現在のトレンドと今後の見通しについての深い洞察を提供しています。ぜひ、ご活用ください。
 
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